惑星と中学生

不定期で、代田橋にあるflotsam booksの店番をしている。店番中に友人がお店に来てくれて、本を片手に喋ることがよくある。
この日も友人の風人くんがふらっと現れた。ふたりで他愛もない話をしていると、鮮やかなオレンジ色の自転車に乗った少年が店の外からこちらの様子を窺っている。
しばらくして、彼はお店に入ってきて店内を眺め始めた。
何かお探しですか?と声をかけると、
「すぐそこの病院に用事があって、マップで見たら営業中って書いてあったのに休みだったんですよ…。で、前を通りかかって、カッコいいお店があるなと思って。」と話した。
「こういう本は初めて見ました。部屋に置いておいたら気分が上がるだろうな。」と言いながら、写真集を手にして、じっくりとページをめくっていく少年。
「病院行くつもりだったんで、今は3000円しか持ってないんですよ。」と続ける。驚いたことに彼は中学生だった。
私が写真集やアートブックに興味を持ったのは20歳を過ぎてからなので、以前高校生が来店したときも驚いたけれど、中学生と聞いていっそう驚いた。
その年齢でこのお店に出会えるなんて!
しかも、店内の本を物色しながら、「カッコいい...。」と呟いている!

私よりも背が高かったので、中学生だとは思わなかったと伝えると、最近周りに身長を抜かされて焦っていることや、学校ではバスケ部にイケてる人が多くて、自分はサッカー部なのでバスケ部を追い越すために走り込みをしたりしていることを話してくれた。中学生すぎる。
どんな基準で写真集を買うんですか?と、彼に尋ねられた風人くんは、「一枚でもすごく好きな写真があるとか、家に置いておきたいと思う本とか…」と、今まさに買おうとしている写真集を手に、欲しくなった理由を熱心に説明していた。すてきな光景だった。

そうやって話しているうちに、突然私の携帯のアラームが鳴った。
今日は地球から6惑星が一直線に並んで見える日で、東京では18時ごろに一列になるらしく、忘れないようにアラームをかけていたのだった。
3人で店の外に出て、「南西のほうらしいよ。」「南西ってどっちだ?」「こっちこっち。」と言いあいながら、紺青の空を見上げる。
結局、星はまったく見えなかったけれど、ひとりで空を見上げるよりも、3人でまっさらな空に星を探したことが嬉しかった。
帰り際、私は彼に私の写真集をあげた。なんだかちゃんと読んでくれそうな人な気がしたから。
これを機にこのお店に通ってくれたらいいな。

昨日の店番中には、おばあさまが「家の鍵が開かなくて…。」と言いながらお店に入ってきた。「?」と思いながらついていくと、ご近所にお住まいの方で、玄関の鍵が固くて回せなかったようだった。私は知らない人の家の鍵を回し開けて、お店に戻った。
以前にもご近所のおばあさまに携帯の操作を教えてほしいと頼まれて、本がひしめく店内でスマホと格闘したことがある。この店は携帯ショップの役割も果たしているのか…。と思った。

ここは、アートブック屋という以前に代田橋の街の中にあるひとつのお店として、地域の人に信頼されている場所なのだ。
なによりこれは、店主の小林さんの人柄によって築かれてきた美しい関係性だ。こんな場所で店番できることは幸せだな。

(惑星といえば、今読んでいる石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』という本の表紙に惑星の軌道のようなものが描かれている。先月読んだ『紙の民』の表紙もそうだった。)

2026.2.28