untitled (2025/12/23)

先日、大阪府豊中市にある書店、blackbird books での、「ー・・」巡回展が無事に終了した。
お越しくださったみなさま、写真集をお手に取ってくださったみなさま、ありがとうございました。
お店にとっても私にとっても、これが年内最後の展示だった。
最終日に、店主の吉川さんが、「今年最後がこの展示でよかった。」と言ってくれて、嬉しかった。
私は数日間在廊した。吉川さんとぽつぽつと話しながら、お店の片隅で過ごす時間は豊かだった。

その時々で、自分にぴたりと合う本がある。そんな本屋さんが私にはいくつかあるのだが、それはとても幸せなことだと思う。
まったく本が読めなくなってしまった時期もあったので、とくにそう思う。
このお店もそのひとつ。数年前から通っているけれど、いつも、何も買わずには帰れない！
今回も数冊、気になった本を手に入れた。
サルバドール・プラセンシアの 『紙の民』という本も買うことができた。写真集の印刷立ち会いの際に、デザイナーの尾中さんが持って来ていて、おすすめされて以来、読みたいと思っていた本だった。
表紙の銀色の箔押しや、天体の円軌道のデザインは、今回の『ー・・』の裏表紙の弧を描いたデザインに通ずるものがある。刷り上がりを待つ控え室で、この偶然に気づいて、尾中さんと驚いたのだった。
これは年末年始のお供にする。楽しみ。

在廊中には、寺尾紗穂さんの『天使日記』を読んでいた。
エッセイを読み進めると、まさにここ、blackbird books の話が出てきて驚いた。
寺尾さんが、私の目の前のガラス戸を開けて、お店へ入ってくるような錯覚を見る。
やはり、本屋で書棚を見渡して、「あ。」と思った本は、「あ。」と思ったその瞬間に手に取るべきなのだと思う。
去年末ここへ来たときには、ふと手に取った古本の中ほどに、大きな四つ葉のクローバーの押し花が挟まっていた。
長いあいだ挟まれたままだったのか、そのページにはうっすらと四つ葉の型がついていた。
それは大江健三郎の『「雨の木」を聴く女たち』という小説だった。そのときは本の内容よりも、このクローバーを持ち帰りたくて購入したけれど、最近、親しい友人が大江健三郎についてリサーチをしていて、よく彼の話をしてくれるので、今は大江は気になる存在だ。
あのときふと、その本を手に取ったことや押し花が挟まっていたことは、偶然ではないような気がする。
クローバーを栞がわりにして、読んでみようと思う。

ここは、私にとって、たいせつな本や言葉との不思議な出合いが起こるお店なのだ。
きっと私だけではなく、多くの常連さんが同じような体験をしていているに違いない。

blackbird books 内で不定期でオープンする花屋 note さんが、展示しているユリの花の写真に寄せて、季節外にも関わらず、白いユリの花を用意してくださった。
（詳しくは写真集に書いているのでここには書かないけれど、今作でユリを撮影したのには理由がある。）
展示初日はまだ蕾だったけれど、最終日には溢れんばかりに花が開いて、強い芳香を放っていた。真冬にこの匂いを嗅げるとは。
在廊中、ふとしたときに漂ってくるユリの香り。そのたびに、撮影したころの夏に引き戻されるようだった。
搬出を終えて帰るとき、吉川さんが数本包んでくださった。私は大輪のユリの束を助手席に座らせた。
その真っ白な花弁が、次々と信号や街灯の色に染まるのに横目に見ながら帰った。

2025.12.23