「ー・・」展示後記Ⅰ

個展は約5年ぶり。
酷暑に加え、不安定な天気が続く夏の盛りにも関わらず、たくさんの方が来てくださって本当に嬉しかった。
横浜まで足をお運びくださった皆さま、ありがとうございました。

今回、横浜市民ギャラリーを選んだのは、神奈川で本作の展示をやりたかったのと、展示室が地下あったからだった。
地上からは見えない地面の下で展示をすること。鑑賞者が、海底に潜るように階段を降りて展示室へ入ること。
これは、この作品をみせる環境として最適だった。

写真と同じ熱量で取り組んだ音の展示では、一般的なスピーカー、振動性スピーカー、指向性スピーカーの3種類のスピーカーを使った。(今回、初めてフィールドレコーディングやミックスまでやってみて、今まで私は目に見えるものを信じすぎていたと感じた。レコーディング中、「こんな音がするだろうな」と思いながらマイクを向けると、予想しない音が録れることが多々あり、とても面白かった。編集中は、音のあまりの実体のなさに、暗闇でパズルをしているような不思議な感覚だった。)
指向性スピーカーからは鳥の声や貝殻どうしがぶつかり合う音を流し、
振動性スピーカーは、ガラス製の浮き玉に貼りつけて、水滴の落ちる音や、呼吸の音などを流した。
展示していた浮き玉は、ネットオークションで繋がった青森の漁師さんから買い取ったものだ。
プラスチック製のブイが主流になってから、ガラス製の浮き玉の処理に困っているそう。
ひとつひとつ職人の手で作られているので、照明を当てたときに浮かび上がる波のような模様や色が、それぞれ違う。
波にさらされた経年変化で傷がついているものもある。
かつて北の海に浮かんでいた、海と同じ色をしたガラス。
このひとつひとつに、顔も知らない誰かの息がとじこめられている。

展示を終えた今、自宅には、浮き玉が床を埋め尽くしている、不便でおかしな部屋がある。
どうしようかな…。と悩みつつ、ただのフローリングが水面にも見えるので、このままでも良いかもと思っている。

2025.9.1