展示後記Ⅰ

自分で主催する個展は約5年ぶり。
酷暑+不安定な天気が続く夏真っ盛りの開催で、誰も来なかったらどうしよう…と、心配していたけれど、たくさんの方が来てくださって本当に嬉しかった。
横浜まで足をお運びくださった皆さま、ありがとうございました。
搬入出、設営、受付を手伝ってくれた友人たちにも、心から感謝。私は友だちに恵まれている…。(涙)

せっかくなので、作品の内容以外の展示後記を、忘れないうちにダラダラと書き残そうと思う。
展示って楽しいな編。(出版って楽しいな編も書きたい。)

今回、横浜市民ギャラリーを展示会場に選んだ理由はいくつかあるけれど、
神奈川県でやりたかったのと、展示室が地下であることが決め手だった。
都内の方がアクセスしやすいという人は多いとは思うけれど、展示をやる場所は展示の内容と同じくらい大事だと思っているので、横浜でやることにした。
春、たまたまギャラリーの近くを通った際に、「そうだ!ここにしよう!」と思い、勢いだけで事務室のドアをノックした。
そこで展示室を見せてもらい、すぐに地下展示室に決めた。
地下や海底については写真集の中の制作日記で触れているので、ぜひ読んでいただきたい。

今まで展示をしてきた場所の中で一番広いこの場所。展示案を練るときは、なかなかスケール感が掴めなかった。
そんなある日、flotsam booksに立ち寄った際に、店長の小林さんに展示をやることを伝えると、
「広いの?なら、デカい作品でしょ!」と言われて、そっか!と思った私は、勢いだけで巨大な額装を発注した。
後日、小林さんに、「車にギリ載るくらいのめっちゃデカい額にしました!」と伝えたら、笑いながらドン引きしていた。
引いてるけど、小林さんのアドバイスのせい(=おかげ)ですよ…。と思った。

今回、リサーチを終えて作品制作に入るとき、撮影と文章を書くこと、そして音をつくることの3つの要素が必要だと思っていたし、実際、全てが並行して進んでいた。
そこで、文章は写真集の中に収めることにして、2つある展示室の一つを写真の展示、もう一つを音の展示にきっぱりわけようと決めてから、スムーズに写真のセレクトや音の編集ができた。
とはいえ不安だったので、ダンボール工作で展示室のミニチュアをつくって、額装の配置を考えた。
(細かい作業は不得意だけれど、こういう地味な作業もやっておいた方がよいはず!とひとりで叫びながら手を動かした。結果、やってよかった。)

音響は、横須賀の展示でもサポートしてくださった木村和希さんにお願いして、
一般的なスピーカーと、振動性スピーカー、指向性スピーカーの3種類を使わせてもらった。
振動性スピーカーは2台あったので、4種類の音源をつくった。
今回、初めてフィールドレコーディングからミックスまでやってみて、
私は目に見えるものを信じすぎていたと感じた。
「ここからはこんな音がするだろうな」と思ってマイクを向けると、予想していなかった音が聞こえてくることがあり、とても面白かった。
編集では、画面上で波形は見えるものの、音のあまりの実体のなさに、暗闇でパズルをしているような不思議な感覚だった。
カーソルを動かしながら、「私は今、一体何を切ったり貼ったり混ぜたりしているんだ…?」と、頭の中が???になる瞬間がたくさんあった。
フィルムをスキャンして編集する/実際に出掛けて録った音を取り込んで編集する。
この、アナログとデジタルを行き来する様や、ネガという実体はあれど、写ったもの自体に触れられるわけではないという点では、
写真と音は似ているのかもしれない。いや、でも音は…見えなさすぎた…。

振動性スピーカーはガラス製の浮き玉に貼りつけて、水滴の落ちる音や、呼吸音、心臓の音などを流した。
展示会場に数点置いていた浮き玉は、昨年ネットオークションで繋がった青森の漁師さんから買い取ったもの。
今はプラスチック製のブイが主流になり、ガラス製の浮き玉の処理に困っているそうで、
空き地にうず高く積み上げられた浮き玉の山の写真が送られてきた。数百個あるという。
職人の手で作られているので、照明を当てたときに浮かび上がる波のような模様や色は、それぞれ違う。
波にさらされた経年変化で傷がついているものもある。
かつて北の海に浮かんでいた、海と同じ色をしたガラス。
このひとつひとつに、顔も知らない誰かの息がとじこめられている。
展示を終えた今、自宅には、浮き玉が床を埋め尽くしている変な部屋がある。
これ、どうしようかな…。と悩みつつ、ただのフローリングが海の水面に見えるので、このままでも良いかと思っている。

展示概要
ー・・(チョータンタン)
日程:2025年8月5日[火]~8月11日[月・祝]
会場:横浜市民ギャラリー展示室B1F
主催:濵本奏
共催:横浜市民ギャラリー
フライヤーデザイン:尾中俊介(Calamari Inc.)
照明:佐藤円
音響設営:木村和希
協力(敬称略・順不同):香川仁美、小林周次郎、酒井瑛作、坂本涼花、清水花、TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH、
築山礁太、中村洋介、株式会社南極、濵野怜耶

2025.9.1